夏の暑さにぐったりしたとき、仮に「夏バテ解消に効果」などといった広告表示が目につけば、その食品や飲み物に思わず手が伸びてしまう、ということはないでしょうか。「夏バテ解消」に限らず、弱っている部分を補ってくれるこのような魅力的な表現はほかにも多く見られますが、薬事法によってその使用には厳しい制限が設けられています。
この記事では、「夏バテ」などをはじめとする食品表示と薬事法との関係について解説します。
パワーストーンの広告は薬事法(薬機法)に照らし合わせるとどうなるのか?
「夏バテ」って実際どんな状態?
夏の暑さに長時間さらされると、どんなにタフな体力の持ち主でもぐったり疲れてしまうことってありますよね。これはいわゆる「夏バテ」といわれる状態で、高温多湿の日本ならではの体調不良です。よく見られる症状としては、倦怠感や疲労感、食欲不振、睡眠不足、頭痛やのぼせ、イライラ感などが知られており、暑さによる食欲不振で栄養不足におちいったり、暑さによる睡眠不足、冷房に当たりすぎることによる自律神経の乱れなどが複合的に身体に悪影響を与え、それが原因となって引き起こされるものです。
「夏バテ解消」は、治療効果を期待させる言葉
夏バテというのは病名ではありません。
体に悪影響を与える複数の要因が重なって不調をもたらしている状態をさすものですので、改善に向けては、こまめな水分補給やエアコンの冷房温度を適切に設定することなどが効果を発揮します。
ほかにも、食事を工夫して栄養をしっかりとる、睡眠時間をたっぷり確保する、適度な運動を習慣にして自律神経の乱れを抑えるといったことなども有効です。しかし夏バテは、実際に薬を服用することで改善する治療対象となる症状でもあります。
たとえば、ビタミンBの配合剤は倦怠感や疲労感を改善させ、食欲不振や下痢・便秘といった症状には胃腸薬や整腸剤が効果的です。そのため、「夏バテ解消」と表現した場合は、それが治療効果を期待させる言葉となるのです。
このような治療効果を期待させる言葉はほかにもあり、たとえば、「疲労回復」「体力増強」「老化防止」「肝機能向上」などがそれにあたります。
これらの表現は漠然とした体調不良の状態に対する改善効果を示すとともに、薬を服用することで治癒が期待できる病気の症状そのものについて言っているのです。
「夏バテ」を気軽に使えないのは「薬事法」があるから
夏バテのように治療効果を期待させる言葉は、実は使用にあたっての厳しい決まりがあって、むやみに使用することは法律によって禁じられています。言葉の使用を制限するその法律が「薬事法」といわれるものです。薬事法とは、「医薬品」「医薬部外品」「化粧品」「医療機器」の4分野に関する運用などを定めた法律であり、使用者への安全性と体への有効性の確保を目的に昭和35年に制定されたものです。
その後平成26年の法改正を経て「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」と名称を改め、通称「医薬品医療機器等法」「薬機法」などと用いられています。
薬事法は、医薬品ではないものが医薬効果をうたうことを厳しく禁じています。仮に「夏バテ解消に効果があります」という表現をするのであれば、それは必ず医薬品でなくてはなりません。たとえば「夏バテ解消に効果のあるビタミンB」を含んでいるからといって、食品の広告表示に「夏バテ解消に効果あり」と宣伝してしまうと、それは薬事法違反ということになってしまうのです。
食品と薬事法の関係は?
食品が医薬効果をうたうことは薬事法で禁じられています。しかし、特定の疾病リスク低減に効果があるという表示ができる食品はあります。それが「特定保健用食品」といわれるものです。ここで、食品の種類について整理しておきましょう。
通常、人が口にするのは医薬品と食品の2種類だけで、ほかにはありません。食品はさらに「特定保健用食品」「栄養機能食品」「機能性表示食品」「一般食品」に分けられます。このうち「特定保健用食品」「栄養機能食品」「機能性表示食品」の3つを総称して「保健機能食品」といいます。
特定保健用食品とは、その食品を摂取することで特定の保健的な効果を得ることが期待できるという表示が許可された食品です。トクホマークとともに「おなかの調子を整える」といったような表示が可能で、許可を得るためには国の厳しい審査をクリアする必要があります。
栄養機能食品は、国が決めた一定量の栄養成分を含んでいれば、特に審査を受けることもなく事業者自身の責任において含有する栄養成分が表示できるという食品です。そして機能性表示食品は、事業者が事前に算出した科学的データを国に届け出ることで、特定の保健効果についての機能性が表示できるようになる食品をいいます。
このように、保健機能食品の中でも「効果が期待できる」と表現できるのは特定保健用食品だけです。しかし特定保健用食品といえども、認められた保健的効果以上の表示を行うことはできません。「おなかの調子を整える」という保健的効果が認められたとしても、「便秘の解消が期待できる」と効果を広げて表現することはできないわけです。
「夏バテ」という表現が薬事法に違反するケースとは?
薬事法の目的や食品との関係が整理できたところで、再び「夏バテ」との関係について考えてみましょう。夏バテとは特定の病名をさすのではなく、栄養不足や睡眠不足、冷房のきかせすぎなどがもたらす自律神経の乱れといった、複合的な原因によってもたらされる体調不良をいうものでした。
そのため、人が口から摂取するもので症状を改善しようとすれば、医薬品か食品の中でも特定保健用食品だけが効果をうたうことができ、それ以外は薬事法に抵触するということになります。
また、特定保健用食品であっても、「効果が期待できます」と表記できるのは、国の審査をクリアした保健的効果に限られるので、夏バテ全般の解消に効果が期待できるという表現を行うことはできません。消費者の視点からすると。
食品の宣伝に「これさえ食べれば夏バテの解消や予防は万全です」といったような表現があれば、それは明らかに薬事法に違反した商品ということになりますので、購入を避けたほうが無難といえるでしょう。
「夏バテ解消」をうたった食品は、薬事法違反です
夏バテは、複数の不調要因が重なった体調不良の状態です。根底には薬で治療できる様々な病気が隠れていることもあります。薬による改善効果は薬事法で運用が厳しく規定されているため、夏バテ解消という表現を気軽に使うことはできません。
症状の改善に効果が期待できると表現できるのは食品の中でも特定保健用食品だけで、それ以外の食品が使用していればそれは薬事法違反にあたりますので注意が必要です。