「飲む点滴」という表示は薬機法(旧薬事法)に違反する?

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甘酒は「飲む点滴」と呼ばれています。しかし実際には、点滴とは全く異なるものです。この「飲む点滴」という言葉を製品のパッケージに使用したり、「甘酒は飲む点滴です」などと製品を販売するサイトなどに書くと、「薬機法」違反に問われるのでしょうか。

この記事では「飲む点滴」という表現と薬機法についてや、甘酒に実際に使われている表現などについて解説しています。

薬機法(旧薬事法)が規制していること

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薬事法は2014年に改正され、法律の一部の改正とともに法律名も「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」と変更されました。厚生労働省は「医薬品医療機器等法」と略していますが、インターネットの記事などで一般に使用される場合は「薬機法」と省略されることも多いです。

旧薬事法は、この法律の対象となる製品の安全性や有効性、品質を確保するなどして、国民が医薬品などによる健康被害などを受けず健康に過ごせることを目的として作られました。薬機法もその流れを汲んでおり、医薬品と医薬部外品、化粧品と医療機器、再生医療等製品を規制しています。

規制内容は医薬品などの製造と表示、販売と流通、広告などです。2021年の改正では、虚偽や誇大な広告に対して課徴金制度が設けられました。薬機法には医薬品などの定義が示されています。薬機法による医薬品の定義の1つは、日本薬局方に収められているものです。

「日本薬局方」は厚生労働大臣が定めた、医薬品の規格基準書です。2つ目の定義は、人や動物の診断・治療・予防に使われる目的のもので機械器具などや、これを記録したものではないものになります。最後の定義は、人や動物の体の構造や機能に影響を及ぼすことを目的としたもので、機械器具などではないものです。

医薬品などについて定義を明らかにすることで、医薬品などに当たらないものが明確になっています。

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点滴とは

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点滴は注射方法の1つで、ボトルなどに入った注射薬をつり下げ、少しずつ注射薬を投与する際に使います。点滴には輸液自体の効果を狙う場合と、抗がん剤など急速な投与によって副作用が出るような薬を輸液に溶かして、ゆっくり投与するのが目的の場合があります。

よく知られているのが、熱中症や下痢・嘔吐などで脱水症状を起こしている人の改善を目的とする電解質の投与です。電解質は水に溶けると電気を通す性質を持つ物質で、カリウムやナトリウム、カルシウムなどがこれに当たります。

これらの物質は人の体内で様々な働きをしており、ナトリウムは体内の水分量や浸透圧の調整をします。電解質の輸液には、水のほかにブドウ糖も含まれています。食事が摂れないときの栄養補給の輸液は、いわゆる三大栄養素(糖質・脂質・タンパク質)をそれぞれの材料となる成分に置き換えて投与しています。

医師が使う医療用医薬品は、薬機法では当然医薬品です。点滴の器具は、薬機法では医療機器に当たります。定義は医薬品と同じ目的で使われる機械器具などで、政令で定めるものです。

「飲む点滴」という表現と薬機法

「飲む点滴」は「飲む」と「点滴」の2語からできています。点滴についてはすでに説明しました。飲むの意味は説明するまでもありませんが、飲むと言っているので何らかの飲みものにつけられているキャッチフレーズだと考えられます。

法的な食品の定義は「食品衛生法」では、薬機法が規定している医薬品と医薬部外品を除くすべての飲食物です。「食品安全基本法」でも同様です。つまりこの「飲みもの」は食品に分類されます。一方、点滴の器具は薬機法では医療機器、輸液は医薬品です。

この飲みものは食品でありながら、同時に医薬品(医療器具)だと言っています。薬機法違反の判断基準として、当時の厚生省が昭和46年に出した「無承認無許可医薬品の指導取締りについて」(46通知)があります。「飲む点滴」という表現は「医薬品的な効能効果の暗示」(a)の「名称又はキャッチフレーズよりみて暗示するもの」に相当すると考えられます。

ある内科医によれば、多くの患者が「元気がないので点滴してほしい」、「点滴して栄養をつけてほしい」といったリクエストをするそうです。消費者は「飲む点滴」というキャッチフレーズの飲みものを飲めば、点滴を打ってもらうのと同様の効果を得られると期待するでしょう。

「飲む点滴」の代名詞とも言える甘酒の成分

甘酒は糖分やアミノ酸、ビタミンB群や生理活性物質などが豊富に含まれ、実際に栄養価が高いことで知られています。

一説によると米に含まれるデンプンが体内でブドウ糖に変化することから、米こうじ甘酒が「飲む点滴」と呼ばれるようになったそうです。点滴が直接栄養素を体に入れるものであることに対して、甘酒が「飲む点滴」と表現されるようになったと言う人もいます。

しかし、市販されている甘酒の成分は一様ではありません。主原料として酒粕と米麹を使ったものや、酒粕のみ、米麹のみなどがあります。甘酒を飲んだからといって同じ効果は得られませんし、飲んだ量や期間も関係します。

甘酒のパッケージなどの表示

甘酒の実際の製品のパッケージには「W発酵素材」や「酒粕米こうじ仕込み」、「米こうじ粒入り」などの文字が見られます。販売しているサイトを覗くと、「酒粕には美容成分がたっぷり」や「ぽかぽか快適な毎日を応援」などと書かれています。

「飲む点滴」の表示は見当たりません。2019年には日本で初めて、機能性表示食品として甘酒の届出が受理されています。機能性表示食品制度は2015年に、消費者が正しい知識を持って食品を選べるようにする目的で作られました。

事業者の責任で科学的根拠を提示し、消費者庁に届け出ることでパッケージなどへの機能性の表示が許可された食品です。この製品の機能性表示は「肌が乾燥しがちな方に」です。機能性関与成分は、パイナップル由来グルコシルセラミドと書かれています。

乾燥しがちな肌を潤すことが期待される成分は、セラミドを含有するパイナップル果実抽出物であり、甘酒ではありません。原材料名では甘酒は機能性関与成分とは別に書かれており、機能性関与成分の入った甘酒であることがわかります。

「飲む点滴」という表現は商品のキャッチフレーズには使えない可能性が高い

「飲む点滴」は、あくまで甘酒について世間で言われている言葉です。いつごろ、誰が言い出したのかは判然としません。甘酒に関するサイトの多くでこの言葉を見かけますが、必ず「飲む点滴とも呼ばれる」などと表現されています。

実際に販売されている甘酒には使われていません。「飲む点滴」をそのまま製品のパッケージなどに記載すると、46通知によって薬機法違反と判断される可能性が高いと言えます。

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